学術情報

カプシエイト

2008.10.03

カプシエイト類が肥満モデルマウスの脂質の利用(脂質酸化)を亢進し、内臓脂肪・肝脂肪蓄積を抑制することを確認

−NAASO2008(北米肥満学会)および第29回日本肥満学会にて発表−

味の素株式会社健康基盤研究所(所長:近藤信雄、神奈川県川崎市)は、カプシエイト類の継続的な摂取が脂質の利用を亢進し、メタボリックシンドロームと関連の深い内臓脂肪・肝脂肪蓄積を抑制することを肥満モデルマウスで確認しました。これらの研究成果を、NAASO2008(北米肥満学会)(10月3-7日、USAフェニックス)および 第29回日本肥満学会大会(10月17-18日、大分)にて発表致しました。

◆カプシエイト類とは、
京都大学大学院農学研究科の矢澤教授により自殖選抜された、辛くないトウガラシ中に含まれる成分の総称です。
トウガラシの辛味成分であるカプサイシンと類似の構造、生理活性をもつが、辛味は約1/1000と著しく低いのが特徴です。

発表骨子は、以下の通りです。

【研究内容の詳細】

<背景>
カプシエイト類はカプサイシンと同様にエネルギー消費を亢進する作用を持つ一方で辛味が著しく低いため、継続的な摂取に適すと考えられています。ここでは、食事による肥満を模したモデルとして、脂肪を多く含む餌を与え肥満を誘導したマウスにカプシエイト類を継続的に摂取させ、メタボリックシンドロームと関連の深い内臓脂肪、肝脂肪に着目した解析を行いました。

<方法>
マウス(C57BL/6J)に脂肪分としてラードを7%または30%含む餌(それぞれ通常食または高脂肪食)、もしくはカプシエイト類(0.01〜0.3%)を含む高脂肪食を12週間摂取させた後の体重、内臓脂肪の一種である腸管膜脂肪※1)の重量を測定しました。さらに肝臓中の中性脂肪含量を測定しました。また、これらの餌を4週間与え、間接カロリメトリー法※2)により継続的に脂質酸化量※3)を測定しました。

<結果>
12週間高脂肪食を摂取したマウスは通常食を摂取したマウスに比べて体重が大きく、腸間膜脂肪の重量や肝臓中の中性脂肪含量が有意に増加しました。一方、高脂肪食と共にカプシエイト類を継続的に摂取したマウスでは、これらの増加が抑制されました(図1、図2)。カプシエイト群では肥満の進行を反映する血中レプチン※4)、インスリン※5)のほか、肝機能の悪化を反映する血中ALT※6)についても、高脂肪食摂取による上昇が抑制されました。

図3 エネルギー消費の 基質を解析したところ、試験食摂取期間中の脂質酸化量は、高脂肪食の摂取により顕著に増大しました。 カプシエイト類の添加によって脂質酸化量はさらに増 加する傾向が認められました(図3)。また、代表的なエネルギー消費器官である骨格筋において、カプシエイト類の摂取により、脂質酸化を促す遺伝子の発現 が増加しました (図4)。

<まとめ>
高脂肪食負荷マウスにおいて、カプシエイト類の継続的な摂取により腸間膜脂肪および肝臓中の中性脂肪含量の増加が抑制されました。この効果には、骨格筋などで脂質酸化が亢進し、脂質利用が高まったことが関与していると考えられました。今回の結果はヒトでみられた効果(カプシエイト類の摂取により、米国における肥満傾向〜肥満者に対して(BMI25-35)、腹部脂肪率が低下した:NAASO2007(2007年10月)発表、研究レポート2007年10月16日掲載)を支持するものであり、カプシエイト類の継続的な摂取はメタボリックシンドロームの発症抑制に有効であることが、典型的な肥満モデル動物においても示されました。
今後は作用メカニズムについてもさらに研究を進めるとともに、カプシエイト類の効果を利用しやすい形で提供することによって、現代人の健康維持に貢献していきたいと考えています。

【発表演題】
<北米肥満学会>
Capsinoids, TRPV1 agonists, suppress the accumulation of visceral fat and liver lipids in diet-induced obesity mice.
Inoue, N. et al.
Res Inst for Health Fundamentals, Ajinomono. Co., Inc.

The effects of capsinoids, a capsaicin analog, on energy metabolism in dietary-induced obese mice.
Nogusa, Y. et al.
Res Inst for Health Fundamentals, Ajinomono. Co., Inc.

The effects of dihydrocapsiate, a capsaicin analog, on body weight gain and fat accumulation in dietary-induced obese mice.
Okabe, Y. et al.
Res Inst for Health Fundamentals, Ajinomono. Co., Inc.

Specific activation of sympathetic nervous system regulating brown adipose tissue by capsinoids, TRPV1 activating natural compounds.
Ono, K. et al.
Res Inst for Health Fundamentals, Ajinomono. Co., Inc., Lab of Neurophysiology, Dept of Neuroscience, Jikei University School of Medicine

Capsinoids, TRPV1 agonists, enhance sympathetic outflow to brown adipose tissue.
Yasui, M. et al.
Res Inst for Health Fundamentals, Ajinomono. Co., Inc.

<日本肥満学会>
カプシノイド(TRPV1アゴニスト)は食事性肥満における内臓脂肪、肝脂肪の蓄積を抑制する
井上尚彦(味の素株式会社 健康基盤研究所)ほか

エネルギー代謝に対するカプサイシン類縁体、カプシノイドの効果
原佳子(味の素株式会社 健康基盤研究所)ほか

カプシノイドによる消化管迷走神経を介した局所的な交感神経活動の亢進
安居昌子(味の素株式会社 健康基盤研究所)ほか

【参考】
※1)腸間膜脂肪
内臓脂肪の一種で、腸管の近傍に蓄積される脂肪。

※2)間接カロリメトリー法
呼気中の酸素と二酸化炭素を測定することによって、間接的にエネルギー消費量や脂質酸化量などを測定する方法。

※3)脂質酸化量
体内で酸化された脂質の量。体内で消費された酸素量と産生された二酸化炭素量から求められます。脂質が酸化されるということは、脂質が燃焼されてエネルギーを消費していることを現しています。

※4)レプチン
脂肪細胞から分泌され、食欲やエネルギー代謝を制御するホルモン。血中レプチン濃度は脂肪の量を反映し、肥満に伴って上昇することがよく知られています。

※5)インスリン
血糖値を低下させる作用を有するホルモン。進行した肥満においてはインスリンの働きが減弱し、血中のインスリン濃度が上昇する症状(インスリン抵抗性)を呈します。この症状がさらに進行すると、糖尿病へと発展してしまいます。

※6)ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)
肝臓中に含まれる酵素の一つで、肝細胞がこわれると血液の中に漏れ出てくることから、肝機能の悪化の指標となっています。GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)とも呼ばれます。