2011.2.9
2011年2月18日(金)第26回日本静脈経腸栄養学会にて発表
味の素株式会社(社長:伊藤雅俊 本社:東京都中央区)は、東京大学や仙台オープン病院と共同研究を行い、アミノ酸の一種であるシスチンとテアニン (略:アミノ酸シスチン・テアニン)摂取により、スポーツ時や手術後の炎症反応や免疫機能低下を抑制し、早期体調回復効果があることを発見しました。これ らの研究成果は、
2011年2月17日から名古屋で開催される第26回日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)で発表(※2)する予定です。
【アミノ酸シスチン・テアニンのスポーツ時・手術後の早期体調回復効果を発見!】
一般的にマラソン等の激しい運動後に体調不良に陥る選手が多いことがわかっています。この原因として、激しい運動により強い炎症(※3)反応が引き起こされ、カラダの免疫力が低下し、感染症リスクが高まるためと考えられています。
この度、当社では、“スポーツと免疫力(※4)”をテーマに、東京大学と共同で、駅伝選手やボディビル選手を対象とした臨床試験を実施し、アミノ酸シスチン・テアニンの摂取が強度な運動による炎症反応と免疫機能低下を抑制する研究成果を得ました(*)。
一方、手術時においても、その侵襲(ダメージ)(※5)によって、激しい運動後と同じように、感染症リスクが高まると考えられています。この度、当社では、仙台オープン病院 副院長 土屋 誉 医学博士らのグループと、胃部分切除(手術)患者を対象とする臨床試験を実施し、手術前後にアミノ酸シスチン・テアニンを10日間摂取することにより、手術に伴う過剰な炎症反応および免疫機能低下を抑制し、手術後の早期体調回復に有用であることを明らかにしました。
【仙台オープン病院にて、ERAS(イーラス)プロトコール(※6)の考え方に基づき、手術入院患者の
クリニカルパス(※7)導入が決定!】
近年、医療現場では手術後早期に体力を回復させることを目的としたERASプロトコールの考え方が導入され始めました。 この度の研究成果により、仙台オープン病院において、 |
当社は、今回の成果を踏まえて更にシスチン・テアニンを医療現場で活かすべく、今後もシスチン・テアニンについての研究を基礎から臨床まで継続していきます。将来的にはシスチン・テアニンの機能を活用し、医療現場での課題解決に大きく貢献していきたいと考えております。
本研究は、スポーツ科学研究から得られた知見を医療現場での課題解決に活かすことのできた社会的に意義のある成果と捉えており、今後もこうした研究を積み重ね、幅広い視野で明日のよりよい生活に貢献していきます。
【最新の研究発表:医療現場での取組みの要点】
手術では過剰な炎症反応が起こり、体温(※8)や安静時エネルギー消費量(※9)の 上昇、免疫機能の低下やそれに伴う術後感染症リスクの増大につながることが知られています。これまでに当社は東京大学と共同で実施した臨床試験(駅伝選手 /ボディビル選手試験)により、アミノ酸シスチン・テアニン(以下、シスチン・テアニン)摂取がスポーツ時の強度運動負荷によって起こる過剰な炎症反応や 免疫機能低下を抑制することを明らかにしてきました(*)。スポーツ時における強度な運動負荷と手 術は、侵襲ストレス負荷という観点では同じで、侵襲ストレス負荷後に起こる生体の反応も似た経路を辿ると言われています。そこで今回、当社と仙台オープン 病院の土屋先生は、胃部分切除患者を対象とした臨床試験を実施しました。その結果、シスチン・テアニンを手術前後10日間摂取した胃部分切除患者では、手 術後の血中における顆粒球(※10)数の増加とリンパ球(※11)数の低下がプラセボ(※12)群と比較して有意に抑制されること(図1)がわかりました。この結果から、シスチン・テアニンは手術による過剰な炎症反応および免疫機能の低下を抑制し、術後の感染症のリスクを低減する可能性があると考えられます。
そこで更に、手術に伴う炎症反応によって惹起される安静時エネルギー消費量の増加と体温の上昇について解析しました。その結果、シスチン・テアニンを摂 取した胃部分切除患者では、手術後の安静時エネルギー消費量の増加(図2上)と体温の上昇(図2下)がプラセボ群と比較して有意に抑制されることがわかり ました。これらの結果から、シスチン・テアニンは手術による過剰な炎症反応および免疫機能低下の抑制だけではなく、術後の安静時エネルギー消費量の増加や 体温の上昇を抑制して、手術後の患者の早期回復にも有用であると考えられます。
以上の結果は、近年、欧州静脈経腸栄養学会(ESPEN)で提唱され、徐々に日本にも導入されつつあるERASプロトコールの概念にも合致するものと考えられます。
【スポーツ科学における研究発表と、医療現場への応用に関する要点】
スポーツ時においては、強度な運動によりオーバートレーニング症候群(※13)の リスクが存在します。当社では、駅伝選手やボディビル選手を対象とした臨床試験(東京大学との共同研究)により、シスチン・テアニン摂取が強度運動負荷後 の過剰な炎症反応や免疫機能低下、さらには骨格筋崩壊を抑制することを示唆するデータを取得しました(図3)。この結果から、シスチン・テアニンは強度運 動負荷などの侵襲時における過剰な炎症反応を抑制し、過剰な炎症反応に由来する種々の生体への悪影響を改善することが可能と考えられます。実際に医療現場 では、侵襲ストレスとして感染時、創傷・熱傷時や手術時などが知られています。従って、シスチン・テアニンの作用メカニズムの観点から推察すると、シスチ ン・テアニンは、医療現場、特に手術時などの侵襲ストレス負荷時にも応用することが可能と考えられます(図4)。
(*)論文データ
Effects of oral supplementation with cystine and theanine on immune function of athletes in endurance exercise at a training camp: randomized, double-blind, placebo-controlled trial Murakami S, Kurihara S, Koikawa N, Nakamura A, Aoki K, Yosigi H, Sawaki K, Ohtani M Biosci Biotechnol Biochem (2009) 73: 817-821 Suppression of exercise-induced neutrophilia and lymphopenia in athletes by cystine/theanine intake: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial Murakami S, Kurihara S, Titchenal CA, Ohtani M J Int Soc Sports Nutr (2010) 7: 23 Cystine and theanine supplementation restores high-intensity resistance exercise induced attenuation of natural killer cell activity in well-trained men Kawada S, Kobayashi K, Ohtani M, Fukusaki C J Strength Cond Res (2010) 24: 846-51 Enhancement of Antigen-Specific Immunoglobulin G Production in Mice by Co-Administration of L-Cystine and L-Theanine Kurihara S, Shibahara S, Arisaka H, Akiyama Y J Vet Med Sci (2007) 69: 1263-1270 Combined Administration of L-Cystine and L-Theanine Enhances Immune Functions and Protects against Influenza Virus Infection in Aged Mice Takagi Y, Kurihara S, Higashi N, Morikawa S, Kase T, Maeda A, Arisaka H, Shibahara S, Akiyama Y J Vet Med Sci (2010) 72: 157-165 |
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