「魚を食べると頭がよくなる」と聞いたことがありませんか? 魚の油には、脳の発達や働きを向上させるのに重要な栄養素であるDHAがたくさん含まれています。(図1)
DHAは、私たちのカラダのなかでも脳や神経組織に多く存在し、これらの組織が発達するときに欠かせない栄養素だと考えられています。(図2)
実際に、脳が大きく発達する時期である胎児期から乳児期にかけて脳に含まれるDHA量を測定したところ、DHA量は妊娠20週ごろから徐々に上昇し、生後も上昇を続けていました(図3)。脳の発達とともに脳内のDHA量も上昇していくことからも、DHAは脳の発達に深く関わっていることが分かります。
また、DHAは脳の情報伝達機能をサポートすることが知られています。DHAは脂質の中でもとても柔らかい性質を持っています。つまり、脳の神経細胞の細胞膜にDHAがたくさん含まれていると、その細胞膜は柔らかい状態を保ちやすくなります。ヘアコンディショナーが髪の毛を柔らかくするようなイメージです。脳が活動するときには、神経細胞が情報をやり取りしていますが、神経細胞の細胞膜が柔らかいと、その情報伝達を最適に調節してスムーズに行うことができます。逆に、神経細胞の細胞膜が硬くなると情報伝達の機能が弱まります。
ところで、なぜDHAの脳への影響が注目されるようになったのでしょうか?そのきっかけは、日本人の学力と食生活にあります。1970年代に「日本人の学力の高さは魚中心の食生活をしているからかもしれない」というデータが報告され、世界中からDHAに注目が集まりました。そして、子どもの脳の発達にDHAはどのような影響を及ぼすのか、さまざまな研究が行われてきたのです。
例えばオックスフォード大学で行われた研究で、健康な小学生を対象に1日600mgのDHAを摂取した児童と摂取しなかった児童の「読解力」を比較したところ、DHAを摂取した児童の読解力が向上したことが報告されました。(図4)
また、発達障がいのある小学生が3ヵ月間DHAを含むサプリメントを摂取したところ、摂取しなかった小学生に比べ、「読解力」の発達が9~10カ月早い結果となりました。このように、DHAは子どもの学習能力の発達を高めることがわかっています。(図5)
DHAは、読解力、読み書きなどの学力だけでなく、集中力や社会性など精神的な能力も向上させることが期待されています。健康な小学生を対象とした研究で、1日600mgのDHAを摂取した児童と摂取しなかった児童の行動を保護者に評価してもらったところ、DHAを摂取した児童は摂取しなかった児童と比べて、反抗性および多動性(落ち着きのなさ)が顕著に改善したという結果を得ました(図6)。また、情緒不安定なども改善されており、子どもたちはDHAを摂取することで、社会性の高い行動がとれるようになったと考えられています。
さて、私たちはどのようにして目でものを見ているのでしょうか?私たちがものを見るとき、目から入ってきた光が目の奥にある網膜に到達し、網膜に像が映し出されます。その画像情報が視神経を通って、脳へ伝えられることで、ものを認識します。
目の網膜や視神経にもDHAがたくさん存在しています。視神経の細胞膜にDHAが多く含まれると、視神経が情報を伝える働きをスムーズにし、網膜に映った像を素早く正確に脳へ伝えることができます。(図7)
乳児を対象として、DHAが視覚機能へ及ぼす影響を検討した研究では、DHAを摂取した乳児はDHAを摂取しなかった乳児と比べて、視力が高くなることが示されました(図8)。こうした知見からDHAは、網膜や視神経の働きを活発にし、子どもたちの目の健康維持、視覚機能の向上に重要な栄養素と考えられています。
欧米では、医療や栄養関連の分野において、DHAに関する研究が盛んに行われており、オメガ3系脂肪酸に関する学術論文数は2万件以上にのぼります。今後さらなるDHAの機能の解明に大きな期待が寄せられています。(図9)
子どもの健やかな成長、とりわけ脳の発達や視力の向上に役立つ栄養素として、国内外で注目を集めるDHAですが、その摂取量は不足しがちです。DHAを上手に摂取するとともに、バランスの良い食事をとることや、適度な運動、十分な睡眠なども心掛けて、お子さまがいきいきと健やかに成長される姿を見守っていただきたいと願っています。