学術情報

カプシエイト

カプシエイト類※1の摂取により、ヒトでのエネルギー消費量・脂質酸化量の増加効果を確認

−2006年北米肥満学会及び第27回日本肥満学会で発表−

味の素(株)健康基盤研究所(所長:高橋迪雄、神奈川県川崎市川崎区)は、ヒトにおいて、カプシエイト類の摂取によって、エネルギー消費量・脂質酸化量が増加することを確認いたしました。その研究成果を2006年北米肥満学会(2006年10月20日−24日、ボストン)及び第27回日本肥満学会(2006年10月27日−28日、兵庫県)で発表しました。

※1カプシエイト類とは
京都大学大学院農学研究科の矢澤教授により自殖選抜された辛くないトウガラシ中に含まれる成分の総称。トウガラシの辛味成分であるカプサイシンと類似の構造を持つが、辛味はほとんど感じられない。その一方、カプサイシンと同様に、エネルギー消費量増加、体脂肪低減、体重減少作用などの生理機能があることが報告されています。

発表骨子は、以下のとおりです。

▼発表演題

1.2006年北米肥満学会。
“Enhancement of energy expenditure and fat oxidation in human subjects by ingestion of novel and non-pungent capsaicin analogues (“capsinoids”) “ Naohiko Inoue, Yoshiko Matsunaga, Hitoshi Satoh, and Michio Takahashi Ajinomoto Research Institute for Health Fundamentals

2.第27回日本肥満学会
「カプシノイド(カプシエイト類)の摂取により、エネルギー消費、脂質酸化が亢進する」 発表者 味の素(株)健康基盤研究所 井上尚彦、
松永佳子、佐藤斉、高橋迪雄

<研究の背景>
肥満者の減量には摂取エネルギーを制限することが必要ですが、同時に消費エネルギーの増加が見込まれる方法を併用することによって、食事制限に伴うリバウンド等の諸問題を軽減させることが期待できます。今までに動物実験の結果から、カプシエイト類の2週間投与により24時間の総エネルギー消費量が増加することが明らかとなっています。このエネルギー消費量の増加は安静時エネルギー消費量(REE)※2の増加によるものと考えられました。そこで、本研究ではヒトにおいて4週間のカプシエイト類摂取によるREEの増加を中心に調べるとともに、その効果がBMI※3の違いによって異なるかを調べました。

※2安静時エネルギー消費量(REE)とは、
やすらかで落ち着いた状態で測定されたエネルギーの消費量のことです。体温の維持、心臓等の内臓の動き、呼吸等、生きていくために必要な基本的なエネルギー量と考えられています。意味としては、基礎代謝量と近いですが、測定方法が異なるため、少し高めの値となります。

※3BMIとは、
Body Mass Index(体格指数)の略で、肥満の判定方法に広く使われている値です。体重(kg)を身長(m)の二乗で割ったもので、日本では、25以上で肥満と判定されます。

<試験方法>
健康な被験者44名に対し、カプシエイト類を10mg摂取する群(N=15)、3mg摂取する群(N=14)、プラセボ群(N=15)の3群に分けて試験を行いました。試験食は、辛くないトウガラシ「CH-19甘」から抽出したカプシエイト類をカプセルに詰めたものを使用しました。試験食の摂取は、4週間、1日1回朝食前としました。試験食摂取開始時、2週間後、4週間後に、起床後絶食の状態でエネルギー代謝、体重、血圧の測定、および血液検査を行いました。

<試験結果>
4週間のカプシエイト類を摂取することによって、酸素消費量(VO2※4、REE、脂質酸化量※5の増加傾向、体重の減少傾向が見られました。なお、この間、特に有害な事象は観察されませんでした。BMIとカプシエイト類摂取による脂質酸化量の増加量との間の相関について調べたところ、有意な正の相関を示しました。そこで、BMI≧25に該当する被験者(N=28、日本の「肥満」の診断基準の一つ)を抽出したところ、カプシエイト類を10mg摂取した群においてはVOO2の統計学的に有意な増加(p<0.05)、REEおよび脂質酸化量の増加傾向がみられました(図1)。また、3mg摂取した群においても脂質酸化量の増加傾向がみられました。

※4酸素消費量とは、
やすらかで落ち着いた状態で測定された酸素の消費量のことです。体温の維持、心臓等の内臓の動き、呼吸等、生きていくために必要な基本的なエネルギー量を算出する指標と考えられています。意味としては、エネルギー消費量と近いものです。

※5脂質酸化量とは、
体内で脂質が酸化された量のことです。体内で消費された酸素量と産生された二酸化炭素量から求められます。脂質が酸化されるということは、脂質が燃焼されてエネルギーを消費していることを現しています。

<結論>
4週間にわたるカプシエイト類の摂取により、REEの増加が誘起されることがわかりました。そして、その効果はBMIが高い人でより顕著な結果となりました。このことから、カプシエイト類の摂取は、肥満予防あるいは肥満改善に有効であると考えられます。