学術情報

カプシエイト

2010.7.14

辛くないトウガラシの新規成分カプシエイト類の研究成果

カプシエイト類の摂取によるエネルギー消費量の増加に褐色脂肪組織が関与

2010年7月13日 国際肥満学会(ICO 2010)にてその成果を発表

 褐色脂肪組織は、エネルギー消費量の調節を司り、体脂肪量の増減に関与することが、マウスなど動物を用いた研究ですでに明らかとなっています。一方、ヒトの褐色脂肪組織は、新生児にはある程度存在しますが成長につれ退縮し成人ではほとんど検出できず、その生理的役割はほとんど無いというのが従来の定説でした。しかし、近年、斉藤教授らのグループはPET画像診断※3を利用することで成人でも褐色脂肪組織を検出できることを明らかにし、ヒトにおいても褐色脂肪組織の活性化が肥満の抑制に対して効果があると考えられており、世界的に注目を集めています。
 カプシエイト類は、これまでの研究からヒトにおいてエネルギー消費量を増加させることが明らかとなっています。本研究では、カプシエイト類のエネルギー消費量増加作用に褐色脂肪組織の活性化が関与しているかどうかを検討することを目的とし、以下の試験を実施しました。

 今回の試験には男性(18名)が参加し、カプシエイト類 9mgを単回摂取した後のエネルギー消費量を測定しました。また、それぞれプラセボ※4を摂取した場合のエネルギー消費量も測定し、カプシエイト類を摂取した場合のそれとの比較を行いました。加えて、予めPET画像診断を実施し、褐色脂肪組織の活性が高い人の群(10名)と低い人の群(8名)に分け(図1)、群間でカプシエイト類摂取によるエネルギー消費量の増加に関する比較を行いました。
 その結果、全体(18名)でプラセボ摂取後に比べてカプシエイト類摂取後のエネルギー消費量の方が大きく、カプシエイト類摂取によりエネルギー消費量が増加することが分かりました(図2)。また、褐色脂肪組織の活性が高い群(10名)では、カプシエイト類摂取後のエネルギー消費量増加作用がより強く見られました(図3)。以上の結果より、カプシエイト類のヒトにおけるエネルギー消費量増加作用に褐色脂肪組織の活性化が関与していることが示唆されました。

 最近の知見によれば、褐色脂肪組織の活性化は肥満抑制に繋がると考えられています。今回の研究によって、カプシエイト類の摂取による褐色脂肪組織の活性化が示唆されました。このことは、カプシエイト類が肥満抑制に有用である可能性を示唆しています。当社では、カプシエイト類の継続的な摂取が褐色脂肪組織をさらに活性化する可能性があると考え、今後、更なる研究を続けていく予定です。

図1 褐色脂肪組織の活性が高い被験者と低い被験者におけるPET画像診断像。画像で左図の矢印部分が褐色脂肪組織。

図2   全体におけるカプシエイト類またはプラセボ摂取後のエネルギー消費量の変化。カプシエイト類を摂取した群は、有意なエネルギー消費量の増大を示したが、プラセボを摂取した群は変化しなかった。 (被験者数18名、縦軸:エネルギー消費量の変化値、横軸:摂取後の経過時間、*:p<0.05)
図3   褐色脂肪組織の活性の高い群におけるカプシエイト類摂取後のエネルギー消費量の変化。カプシエイト類を摂取した群は、有意なエネルギー消費量の増大を示したが、プラセボを摂取した群は変化しなかった。 (被験者数10名、縦軸:エネルギー消費量の変化値、横軸:摂取後の経過時間、**:p<0.01、*:p<0.05)

【参考資料】

学会発表の題名・発表者
Brown adipose tissue is involved in thermogenic effects of capsinoids in humans
Yoneshiro, T1, Aita, S1, Kawai, Y2, Furuhata, Y3, Saito, M1
1 Department of Nutrition, Graduate School of Nursing and Nutrition, Tenshi College, Sapporo, Japan、2 LSI Sapporo Clinic, Sapporo, Japan、3 Research Institute for Health Fundamentals, Ajinomoto Co., Inc., Kawasaki, Japan

※1 単回摂取とは、
試験食品の摂取が1人に対し1回のみ行われる場合を単回摂取と言います。それに対し、1人に対し複数回、ある一定間隔を設けて連続して行われる場合を連続摂取と言います。

※2 褐色脂肪組織とは、
ヒトや数種類の動物では、主に首の周りと胸郭の大きな血管に位置し、この組織(細胞)中のミトコンドリアにおいて脂肪を分解し、熱を産生します。

※3 PET画像診断とは、
ポジトロン・エミッション・トモグラフィー(Positron Emission Tomography)の略で、がんの診断に利用されています。ブドウ糖に近い成分(FDG)を体内に注射し、しばらくしてから全身をPETで撮影するとFDGが多く集まるところが画像上で黒く染まります。最近、褐色脂肪組織にFDGが多く集まることが明らかとなり、褐色脂肪組織を検出する方法として利用できるようになってきました。

※4 プラセボとは、
ある試験(臨床試験など)で食品(あるいは医薬品)の効果を調べる際に、確認された効果がその食品や医薬品の成分によるものかどうかを客観的に考察する上で、それら成分を全く含まない比較(対照)食品(あるいは医薬品)についても同様に検査を実施します。この比較(対照)食品(あるいは医薬品)のことをプラセボと言います。

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