専門家のアドバイス

睡眠

独立行政法人 国立健康・栄養研究所
基礎栄養研究部・部長
エネルギー代謝研究室・室長(併)
田中 茂穂先生

日常生活のちょっとした動きをこまめに行うことが代謝アップのコツ!

1日のエネルギー消費量は大きく3つに分類できますが、このうち約3割を占める“身体活動によるエネルギー消費”は個人差が大きく、代謝をアップさせるためには、身体活動に注目することが鍵と言えます(基礎代謝量や食事誘発性熱産生を自分自身でコントロールすることは難しいのです)。(図1)

図1 エネルギー消費量の内訳

ポイントは「生活活動を増やすこと」

図2 身体活動

 人がカラダを動かすことを「身体活動」といい、そのエネルギー代謝は、「運動」と「生活活動」によるものに分けられます。
 「身体活動」によりエネルギーを消費するというと、「運動」によるエネルギー消費量のほうが多そうに思えますが、実は、その9割は「生活活動」によるものなのです。この「生活活動」のエネルギー代謝アップこそが肥満予防のカギといえます。

 「生活活動」とは、会社生活での階段昇降や荷物の運搬などの仕事や、家庭生活での買い物や床掃除、掃除機かけなどの家事、着替えや歯磨きなどの身の回りの活動を指します。運動を週2日以上行っているヒトは、約3割程度にすぎませんが、仕事や家事などに関わる「生活活動」は全てのヒトが行っています。このような日常生活のなかで、ほんのちょっと気をつけるだけで、無理なくエネルギー消費量を増やすことができるのです。

生活活動を意識的に増やし、エネルギー消費量を増やす

 身体活動の強度を表す単位をMETs(メッツ)といいますが、アメリカスポーツ医学会のメッツ表によると、「普通の歩行(4.0km/時)=3.0METs」となっています。(図3)

図3 各活動強度(METs)の推定値と実測値 ~生活活動を評価できる3次元加速度計を用いて~

消費エネルギー(kcal)=METs×活動実施時間(h)×体重(kg)×1.0
ですので、体重50kgの人が、3.0METsの歩行を30分程度行った場合、
3.0(METs)×0.5(h)×体重50(kg)×1.0=75kcal
のエネルギーを消費したことになりますが、安静時(1MET)との比較では、
(3.0 – 1.0)(METs)×0.5(h)×体重50(kg)×1.0=50kcal
のエネルギーを余分に消費していることになります。
 浅草を観光する人は、よく浅草寺から東京スカイツリーまで歩いていますが、この距離が約2kmに当たります。この区間を仮に普通の歩行(4.0km/時程度)で歩くと、約30分かかります。
これで50kcalの余分なエネルギー消費になりますので、たとえば、毎日の通勤や買い物などで、最寄り駅の手前で降りて、30分程度散歩してみるのも良いでしょう。
 肥満の原因は、1日15~60kcal程度の小さなエネルギーが積み重なって、長期的に体重増加につながると考えられています。ということは、 50kcalの余分なエネルギー消費を日々積み重ねることで、肥満予防につながります。
 ちなみに、50kcalとは、ジョギングで7~8分、自転車で15分程度のエネルギー消費に相当します。
 毎日ジョギングや自転車に乗るのはなかなか続かないことだと思いますが、会社でも家でもほんの少し意識的に、最終的には合計して30分程度、徒歩時間を増やしてみましょう。

長時間の座り続けはメタボの第一歩
肥満予防は、糖尿病や高血圧、心筋梗塞などの予防にも

 肥満を予防することで、さまざまな病気を予防することにもつながります。
 標準体重の人と、肥満の人との違いに、立ったり移動したりしている時間と座っている時間の違いがあります。
 ある情報によると、肥満傾向の人は、標準体重の人に比べて、座っている時間が1日164分(2時間44分)も長く、エネルギー消費にすると352kcalも差があったそうです。(図4)

図4

 また、長時間座り続けているヒトとそうではないヒトでは、腹囲に差がみられるという研究もあり、長時間の継続的な座位はメタボ体形につながってしまうのです。(図5)

図5 座位行動と腹囲

肥満は、糖尿病や脂質異常症などの内分泌系や、高血圧や心筋梗塞などの循環器系、睡眠時無呼吸症候群などの呼吸器系など、さまざまな病気を引き起こす可能性があります。
 肥満やそれに伴うさまざまな病気の予防のためにも、ちょこまかと動き、小さな積み重ね“スモールチェンジ”をぜひ心がけてみてください。

改訂版作成:
独立行政法人 国立健康・栄養研究所
基礎栄養研究部 中江悟司・田中茂穂
健康増進研究部 宮地元彦