学術情報

アミノ酸“シスチン”と“テアニン”

2008.05.31

シスチン/テアニン含有食品が男子大学ボディービル選手の高強度筋力負荷トレーニング後の免疫機能低下を抑制することを確認

−第55回米国スポーツ医学会学術集会で発表−

東京大学大学院新領域創成科学研究科の大谷勝特任教授のグループは、シスチン/テアニン含有食品が男子大学ボディービル選手における高強度筋力負荷トレーニング後の免疫機能低下を抑制することを確認いたしました。その研究成果を第55回米国スポーツ医学会学術集会(55th ACSM 2008)(2008年5月28日−31日, インディアナポリス, インディアナ州, 米国)で発表しました。

発表骨子は、以下のとおりです。

▼発表演題
第55回米国スポーツ医学会(55th ACSM 2008)
Protective effects of cystine and theanine supplementation on immune system in high-intensity resistance training.
Kawada S, Kobayashi K, Ohtani M, Fukusaki C
Department of Human and Engineered Environmental Studies, Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo

<研究の背景>
一般的にスポーツ競技選手では強度な運動負荷後に炎症※1反応の上昇や免疫機能の低下が起こることが知られていますが、筋耐久負荷となるボディービル選手では筋力負荷トレーニング後に免疫機能がどのように変化するかは統一的な見解が得られていません。また、ボディービル選手では筋力負荷トレーニング時にアミノ酸を摂取すると筋力が増強することが知られていますが、アミノ酸摂取が免疫機能にどのような影響を及ぼすかについては明らかとなっておりません。本研究によって、シスチン/テアニン含有食品がボディービル選手の高強度筋力負荷トレーニング後の免疫機能低下を抑制することを明らかにしました。

<実験方法>
東京大学ボディービル部員、スポーツ科学系大学院生で日常的に高強度の筋力負荷トレーニングを行っている男性15名(平均年齢22.8±4.0歳)を、プラセボ食品群(N = 7)とシスチン/テアニン含有食品群(N = 8)に分け、各群において当該食品を2週間、毎夕食後に摂取しました。被験者は日常的に3回/週の頻度でトレーニングを行っているので、実験第1週目は通常通り3回/週でトレーニングを行い、第2週目は、6回/週と、第1週の倍の頻度でトレーニングを行いました。試験食品摂取前、第1週終了日、第2週終了日に採血および唾液採取を行い、被験食品摂取による臨床症状の変化について評価を行いました。

<試験結果>
いくつかの血中免疫指標や唾液中のIgA※2は実験期間を通じて両群とも有意な変化は認められませんでした。一方、持続的な高強度運動負荷によって活性が低下することが知られている血中免疫指標であるナチュラルキラー細胞※4活性は、プラセボ食品群で第2週目にシスチン/テアニン含有食品群と比べて有意に低下しました(図1)。これらの結果から、ナチュラルキラー細胞活性は、通常のトレーニング時にはシスチン/テアニン含有食品の有無に関わらず影響を受けないが、高強度・高頻度の筋力負荷トレーニングでは低下すると考えられました。更に、そのナチュラルキラー細胞活性の低下はシスチン/テアニン含有食品摂取によって軽減することが示唆されました。

※1 炎症とは、
感染,外傷や熱傷など,生体が外部から何らかの刺激を受けた際に免疫応答が働き,その結果生体に現れる生理的な応答反応
※2 IgAとは、
免疫グロブリンAのことで、Bリンパ球から産生される抗体の一種。鼻や腸などの粘膜組織や唾液中に含まれる。
※4 ナチュラルキラー細胞とは、
免疫系の初期において主に機能する細胞障害性リンパ球の一種で、ウイルスなどが感染した細胞などに対して、細胞を破壊し除去するように機能する。

<結論>
シスチン/テアニン含有食品の摂取は、高強度・高頻度筋力負荷トレーニング時における血中ナチュラルキラー細胞活性低下を抑制し、免疫機能の低下を防止する可能性が示唆されました。