学術情報

アミノ酸“シスチン”と“テアニン”

2009.05.30

シスチン/テアニン含有食品が男子大学駅伝選手の冬期強化合宿における強度持久運動負荷に伴う炎症反応増加や免疫能低下を抑制することを確認

−第56回米国スポーツ医学会学術集会で発表−

東京大学大学院新領域創成科学研究科の大谷勝特任教授を中心としたグループは、シスチン/テアニン含有食品が男子大学駅伝選手における冬期強化合宿時の強度持久運動負荷に伴う炎症反応増加や免疫能低下を抑制することを確認いたしました。その研究成果を第56回米国スポーツ医学会学術集会(56th ACSM 2009)(2009年5月27日−30日、シアトル、ワシントン州、米国)で発表しました。

発表骨子は、以下のとおりです。

▼発表演題
第56回米国スポーツ医学会(56th ACSM 2009)
Improvement of Inflammatory and Immune Response of Athletes at Intense Endurance Exercise by Cystine/Theanine Supplementation Masaru Ohtani1), Shigeki Murakami2), Hiroshi Yoshigi2), Keisuke Sawaki2), Shuzo Kamei3), Shigekazu Kurihara4), Charles A. Titchenal5)

1) The University of Tokyo, Tokyo, Japan.
2) Juntendo University, Tokyo, Japan.
3) Takaoka University of Law, Takaoka, Japan.
4) Ajinomoto Co. Inc., Tokyo, Japan.
5) University of Hawaii at Manoa, Honolulu, HI.

<研究の背景>
スポーツ競技選手においては、強度の運動により炎症※1反応の増加や免疫機能の低下による感染症リスクの増大さらに体調不良が持続するオーバートレーニング症候群などのリスクが存在します。昨年の55th ACSMにおいてボディビルダーが強度の筋力負荷トレーニング時にシスチン/テアニン含有食品が免疫力の低下を抑制できることを報告しました。今回は、強度の持久運動トレーニング時に当該食品が免疫能低下を抑制のみならず、炎症反応や体タンパク質の分解を抑制することを明らかにしました。

※1 炎症とは、
感染、外傷や熱傷など、生体が外部から何らかの刺激を受けた際に免疫応答が働き、その結果生体に現れる生理的な応答反応。

<実験方法>
大学陸上競技部に所属し全日本大学駅伝対抗選手権大会出場予定の男子駅伝選手を対象とし、シスチン/テアニン含有食品摂取群(n = 8)と対照食品摂取群(n = 8)の2群に分けて、各群において当該食品を合宿前8日間と合宿中8日間の計16日間摂取しました。合宿初日と合宿最終日の二回、早朝の強度の運動負荷(1000m×15回インターバル走)の前後に,採血および唾液採取を行い、被験食品摂取による臨床症状の変化の観察を行いました。

<試験結果>
血中の炎症指標では、合宿初日の強度持久運動負荷後の好中球※2数は、プラセボ(P)群、シスチン/テアニン含有食品(CT)摂取群ともに有意に上昇するが、P群と比較してCT群ではその上昇が有意に抑制されていていました(図1)。一方,血中の免疫指標では、合宿初日の強度持久運動負荷後のリンパ球※3数は、P群、CT群ともに有意に減少するが、P群と比較してCT群ではその減少が有意に抑制されていました(図2)。また、合宿初日の強度持久運動負荷後の血中のミオグロビン※4値は、P群、CT群ともに有意に上昇するが、P群と比較してCT群ではその上昇を抑制する傾向が認められました(図3)。以上の結果から、CT摂取は強度持久運動負荷に伴う過剰な炎症反応を抑制し、この過剰な炎症反応に由来する免疫機能低下ならびに骨格筋の崩壊を抑制する可能性が考えられました。

※2 好中球とは、
白血球の一種で、強い殺菌・貪食能をもち、細菌やウイルスなど体内の異物を除去する働きがある。その際に炎症反応を惹起する。
※3 リンパ球とは、
白血球の一種で、抗体を産生する液性免疫を担うBリンパ球と細胞自身で異物を攻撃する細胞性免疫を担うTリンパ球がある。
※4 ミオグロビンとは、
酸素と結合する色素タンパクで鉄を含み、骨格筋中に大量に存在する。このタンパク質の血中への逸脱が骨格筋崩壊の一つの指標とされている。

<結論>
シスチン/テアニン含有食品の摂取は、過剰な炎症反応抑制という機構を介して、スポーツ競技選手における激しい運動負荷が伴う強化合宿時の感染症の発症防止だけではなく、骨格筋の崩壊の抑制にも寄与し、トレーニングのパフォーマンスの向上に寄与する可能性が示唆されました。